カトリック上福岡教会

説教

「信仰の神秘」 四旬節の黙想 2021年

カトリック上福岡教会 ヨハネ 加藤 智神父

ご一緒に福音にお聞きしながら、今年も四旬節を歩ませていただきたいと思います。それは、ちょうど主キリストに伴って、主とともに、福音に語られる人々との出会いを重ねる旅のようでもあると思います。

主キリストの出会われた一人ひとりの辿った人生は異なっていました。その中には、主を信じ、主に自分たちを委ねていった多くの人々がいました。しかし、主のみことばを聞き、主のみ業に与りながらも、なお主を疑い、イエズスさまを主キリストとして受け入れることができなかった人々もいました。

あるいは、エルサレムの群衆のように、ひとたびはイエズスさまを救い主キリストと歓喜の声をもって迎えたにもかかわらず、その同じ週の内に、その同じ主キリストを、「十字架につけよ」と叫んだ人々もいました。

これらの人々の内、いったい誰がこのわたしなのでしょうか。実際は、そのすべての人々がこのわたしの姿である、あるいはあった、というべきかもしれません。

復活の主キリストの使徒パウロは、「聖霊によらなければ、だれもイエズスは主である、と信じることはできない」(Iコリント12:3)と告白しています。その通りだと思います。わたしたちがもし、喜んで主キリストを信じさせていただいているというのであれば、それはひとえに、聖霊なる神の恵みであり、聖霊の御導きであると思います。

たとえばわたしのようにキリスト教とは縁もゆかりもない仏門に生まれた者が、手探りのような歩みの末、今、イエズスさまを神なる主キリストと信じさせていただいているということは、これは神の恵みによるとしか言いようのないことです。

事実、主イエズス・キリストを信じさせていただくと言うことは、とても重いことです。なぜなら、聖書においては、神を信じられず神を疑うことを罪というからです。神に対する罪とは、何か悪いことをするということよりも、神を疑うことです。主を疑うことは、神を心底から信じることができない、主なる神キリストに自分を委ね切ることができない、ということです。そこにはまことの平安はありません。

主キリストの時代の律法学者やファリサイ派の人々がそうでした。彼らは、約束されていた主キリストを、そして主における真の平安を、熱心に待ち望んでいたはずの人々でした。しかし、彼らはイエズスさまにお会いした時に、彼を主キリストと受け入れることができませんでした。自分たちを主に委ねることができなかったのです。イエズスさまを疑ったからです。それを、罪というのです。そして、そこには真の平安はない。主は、それを、彼らのために本当に悲しまれたに違いありません。

そのような主を疑うわたしたちのただ中で、わたしたちの罪のために、黙々と十字架を負って歩まれる主イエズス・キリスト。四旬節の間中、主キリストとともに、たくさんの人々に出会い続けてゆくであろう中で、実は、わたしたちは、自分自身に、また同時にキリストご自身に、くり返し出会わせていただいて行くのではないでしょうか。主を疑うわたし、に。そして、そのようなわたしのために、主を疑うわたしの罪を一身にご自身の十字架として背負い、背負い抜いてくださる主イエズス・キリスト、に。

主キリストを疑うがゆえに、かつては主に捧げる何物も用意できなかったわたし。しかし、主はそのわたしのために、十字架の死に至るまでご自身の一切を、ご自身の御からだとその御血の最後の一滴に至るまで与え尽くしてくださいました。十字架の主キリストは、わたしの疑いの罪を破り、わたしに信仰をお与えくださる唯一の神。

「信仰の神秘」。それは、主キリストが罪のわたしに「信仰」をお与えくださった、主ご自身がわたしの「信仰」となってくださったということです。どこまでも神を疑うこのわたしが、主なる神キリストを信じさせていただくには、それしか無かったのです。

主の十字架。ここに初めて、そして最終的に、わたしたちの神への疑いが破られ、わたしたちが神を信じ、わたしたち自身を神に委ね切り、わたしたちを神に捧げつくして生きて行くことがゆるされる新しいいのちが、わたしたちの身の事実とされたのです。それが、「信仰」です。「信仰はまさに神秘」です。

「聖霊なる神」すなわち活ける主キリストによらなければ、だれも「信仰」をいただくことはできないと、パウロはわたしたちに教えています。聖霊は、受難と十字架を経てご復活の栄光に過ぎ越された主キリストからいただく、主ご自身のいのちです。

主キリストはわたしたちの疑いの罪を破り、ご自身がわたしたちの信仰となってくださるために、ご自身のいのちそのものを惜しみなくわたしたちにお与えくださいます。ご聖体、すなわちご自身の御からだにおいて。それがごミサです。

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

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